技術だけでは、人は変わらない

指導を始めてから、早い段階で気づいたことがあります。

同じ手法を同じように教えても、変わっていく人と、止まったままの人がいます。

最初は自分の説明の問題だと思っていました。もっと丁寧に教えれば伝わるのか、事例を増やせばいいのか。そちらを疑いました。何年かやってきて、それだけではないと分かってきました。


正解を探そうとすると、知識を集めることに向かいやすくなります。

知識を集めること自体は難しくありません。ネットで調べられるし、人から教わることもできる。ただ、集めた知識はそのままでは使えるものにはなりません。

「損切りはここですべき」と頭では分かっている。でも実際には切れない。「このエントリーはルールに合っていない」と分かっている。でも手が動く。

知識として持っているものと、実践での落とし込みの間には段階があります。正解は一つではありません。自分にとっての最適解を、経験の中から構築していく必要があります。


まず知識を得る。次に、それを実際に使ってみる。使う中で「これは自分に合うのか」を確かめる。自分の経験の中に落とし込まれてはじめて、知恵に変わる。

知恵は、書いてある通りに動くことではなく、場面に応じてリアルタイムで判断できる状態のことです。エントリーのボタンを押すまでの過程に自分の判断が乗っている。そこまで至ってはじめて、技術と呼べるものになります。

FEP(自由エネルギー原理)の考え方で言えば、人は頭の中だけで学ぶことができません。実際に動いて、思っていたこととのズレを受け取って、そこで見方を修正する。この往復が「学ぶ」ということの正体で、能動的推論と呼ばれています。知識を持っているだけでは、この往復が起きません。

知識から知恵へ、知恵から技術へ。この順番を踏まずに次の知識を入れても、判断は複雑になるだけです。


では、変化が起きるのはどういう時か。何人かと向き合ってきた中で、変わっていく人には共通して見えることがあります。

一つは、自分のトレードを自分で確認している人です。記録があるかどうかではなく、「自分が何を考えて、何をやったか」を後から自分の目で見られているかどうか。これができている人は、負けたトレードからも次に持ち込めるものを作っています。

もう一つは、分からなくなる時期を手法を変えずに通り抜けた人です。学習が進むと、ある時期に前より判断できなくなったように感じることがあります。見えるものが増えるから余計に迷う。「自分は後退しているのか」と感じる時期がある。

仏教の修行論に「大疑」という言葉があります。

大きく迷うことは、必ずしも後退ではありません。むしろ、それまで当たり前だと思っていた見方が揺らぎ、見えなかったものが見え始めたサインでもあります。

ただしその迷いは、ただ悩み続けるためのものではありません。すぐに答えで塞がず、問いとして保ち続ける。自分の認識がどこで行き詰まっているのかを、逃げずに見続ける。

分からなくなった状態とは、古い予測モデルでは現実を処理できなくなった状態です。だからこそ、それは崩壊ではなく、再学習の入口でもあると言えます。

この時期に別の手法へ移った人と、同じ場所に留まって通り抜けた人では、その後がかなり変わります。自分自身、次の手法を探し続けていた時期があるので、これは実感として分かります。

一つは、「なぜそうしたのか」を自分の言葉で説明できる人です。結果の良し悪しではなく、「こういう根拠でこう動いた」と言えるかどうか。ここが明確な人は、負けても崩れにくい。根拠があって負けたのか、根拠なしに動いて負けたのかで、次にできることが変わるからです。


今、添削をする時に見ているのは、勝ったかどうかではありません。「今、正しい方向を向いているか」を確認することにしています。

結果が出ていないから間違っているとは限りません。一時的に勝てているから正しく学べているとも限りません。

同時に、技術には注意が必要です。技術をどう使うかの軸がぶれていると、諸刃の剣になりかねない。相場はそれが起きやすい場所です。心の鏡でもあるし、それが大衆心理であり、その集合体がチャートだと理解しています。

技術の説明を増やすだけで人が変わるなら、もっとシンプルだったはずです。


「技術だけでなく、人の状態を見る」

これが、指導を続けてきた中で一番変わったことです。

この話を書きながら、自分自身のトレードも同じだと思っていました。相場を見ているつもりで、実際には感情を処理しようとしている。そういうことが自分にもあります。

技術は経験と共に向上します。でも、技術を使う軸が自分の中にあるかどうかは、自分の中の問題です。トレーダーとしての在り方と人としての在り方は、同じものだと考えています。技術の先に映し出されるのは、そこだと思っています。


知識をどの順番で実践へつなげればよいか迷っている場合は、中級者ロードマップへ進んでください。
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