Lyapunov・冨永晃輝さん対談動画:FEP的生存戦略とトレーダーアセスメント

生存戦略とトレーダーアセスメント 56のブログ

なぜ「感情」がトレードの邪魔をするのか?

多くのトレーダーが、「知識やスキル(テクニカル)を学べば勝てる」と考えます。
しかし実際にお金をかけると、特に最初のうちは「恐怖」や「焦り」といった感情が出てきて、練習通りにできません。

この問題の根本は、あなたの「意志の弱さ」ではありません。 それは、あなたがこれまでの人生で無意識のうちに身につけてきた、「脳の癖」が原因です。


1. 脳の自動的な「癖」=「生存戦略」とは?

私たち一人ひとりの脳には、これまでの人生経験(育った環境、過去の成功や失敗)から作られた、「自分を守るための自動的な反応パターン」が備わっています。

これをFEPの考え方では「生存戦略」と呼びます。

この「生存戦略」は、あなたがストレスや危険を感じたときに、あなたを守ろうとして「無意識に」作動します。

生存戦略がトレードの「壁」になる例

トレードは大切なお金を失うかもしれない「リスク」に身をさらす行為です。そのため、脳はこれを「危険」と判断し、あなたの「生存戦略」が自動的に発動します。

しかし、その戦略がトレードには逆効果になることが多いのです。

  • 例1:Hさんのケース(恐怖で動けない)
    • 生存戦略: 「失敗するかもしれない場面では、行動しないのが一番安全だ」
    • トレードでの行動: 損失を極度に恐れる「恐怖心」が発動。絶好のエントリーチャンスでも「ビビってエントリーできない」または少しの利益で決済してしまう(チキン利食い)
  • 例2:Tさんのケース(自己流に走る)
    • 生存戦略: 「決まったことをやるより、自分で新しい工夫(自己流)を探求するほうが面白いし、うまくいく」
    • トレードでの行動: 基本ルールを守る「淡々とした作業」に耐えられない。次々と新しい手法や「自己流」を試してしまい、手法が一貫せず安定しない。

このように、あなたを日常で守ってきた「生存戦略」が、トレードの規律(ルールを守る、リスクを取る)と対立してしまうことが、多くのトレーダーが成長できなくなる「壁」の正体であるケースが多いです。


2. 脳の仕組み「FEP」で、自分の癖を理解する

では、どうすればこの「癖」を乗り越えられるのでしょうか。 ここで役立つのが、最新の脳科学の考え方である「FEP(自由エネルギー原理)」です。

FEP(自由エネルギー原理)とは?

  • 予測する: あなたの脳は、あなたの「生存戦略」に基づいて、「こうなるはずだ」という未来を常に予測しています 。
  • ズレ(予測誤差)の発生: しかし、現実は予測通りにはいきません。
    トレードで予測が外れる(=損失が出る)と、脳は「予測と現実が違う!」という強い「予測誤差」(サプライズ)を感じます。
  • ストレス反応: この「予測誤差」こそが、あなたの感じる「不安」「焦り」「恐怖」といった感情の正体です。FEPでは、この状態を「自由エネルギーが高い(不安定な)状態」と呼びます。
  • 暴走: 脳はこの不快な「予測誤差」を一刻も早く解消しようと、衝動的な行動(=感情的なトレード)に走らせます。これが「ポジポジ病」や「ルール破り」のメカニズムです。

FEPの知見を使う最大のメリットは、メンタルの問題を「根性論」ではなく、「脳の仕組み(メカニズム)の問題」として客観的に捉え直せることです。


3. トレードの成長 =「生存戦略」を書き換えること

FEPの仕組みがわかれば、対処法も見えてきます。 感情的なトレードを克服するとは、感情を無理やり押さえつけることではありません。それは、あなたの「生存戦略」そのものを、トレードに適した形に「再構築(リフレーム)」することです。

どうやって生存戦略を書き換えるか?

生存戦略は「無意識の癖」なので、意志の力だけではなかなか変わりません。 そこで、FEPのアプローチでは、「解釈(意味づけ)」を変えることから始めます。

  • 解釈を変える例:
    • 古い解釈: 「損切り」=「自分の大切なお金が減る(損)」
    • 新しい解釈: 「損切り」=「トレードというビジネスに必要な(必要経費)」
    • 古い解釈: 「負け」=「自分はダメな人間だ(自己否定)」
    • 新しい解釈: 「負け」=「トレードで勝つために必要な(学習データ)」
  • 「悪ガキプログラム」というアプローチ
    Hさん(恐怖心が強い)のケースでは、この戦略の書き換えを強制的に行う「悪ガキプログラム」が紹介されています。

    • まず、自分が憧れる「リスクを取れる人物(悪ガキパイセン)」をモデルに設定します。
    • その人物の「生存戦略」を徹底的に分析します。
    • 「今の自分の戦略(恐怖で動けない)のままでは、到底あの人にはなれない」と気づきます。
    • すると、脳は「リスクを取ること」を「単なる恐怖」ではなく、「憧れの姿になるために不可欠な行動」として解釈し直す(再構築する)のです。

まとめ:脳の仕組みを理解することが、成長の第一歩

「FEP」や「生存戦略」という考え方は、あなたのトレードをすぐに変える魔法ではありません。 しかし、それは「なぜ自分が感情的になってしまうのか」を言語化し、客観的に理解するための強力な「武器」になります。

自分の脳の癖(生存戦略)を理解し、それをトレードに適した形に再構築していくこと。 これこそが、テクニカル分析の先にある、トレーダーとしての真の成長(=人間としての成長)に循環します。我々がアセスメントを通じて皆様と共有したいことでもあります。